冬うらら2
□7
 ピンポーン

 チャイムが鳴った瞬間、カイトはムカッとした。

 誰が来たとか知っていたワケではない。

 それが誰であろうと、同じように機嫌が悪くなっただろう。

 せっかくのお茶の時間を、邪魔されることだけは間違いなかったからだ。

 きっと彼女は立ち上がって、一階に降りて応対をしようとするに違いない。

 自分以外の誰かのために。

 それが、腹立たしいのだ。

 せっかく彼女がそばにいるのに、仕事をしなければならない自分に、最初から腹を立てていた。

 その上の追い打ちだったからこそ、余計に不機嫌になったのである。

 予想通り立ち上がった彼女を、無理矢理止める。

 シカトしてろ!

 絶対に今日、彼が会わなければいけない客というのは、この世の中に誰一人として存在していなかった。

 それなら、彼女が降りていく必要はない。

 そわそわしているメイを見張ったまま、カイトはチャイムが止まるのをイライラしながら待った。

 そうして。

 ようやく鳴りやんだ。

 あきらめたに違いない。

 今日は外には出ていないので、まだカギはかかったままの可能性が高い―― おそらく、多分。

 だから、たとえ相手が一番イヤなあの辺りであったとしても、すごすごと帰らざるを得ないはずだ。

 ふぅ。

 安堵のため息をついた。

 これで、貴重な彼女との時間を邪魔されずに済んだことになる。

 よし、と自分の勝利を確信したカイトは、コーヒーの続きに口をつけた。

 まだ、今日という時間はたくさん残っていた。

 仕事もするけれども、彼女が存在するという空気に、もっと馴染まなければならないのだ。

 そっちの方が、ほかの何よりも最優先だった。
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