冬うらら2

 このまま、彼が戻ってこないのではないかと心配した彼女は、勇気を持って解説するコトに決めた。

「あっ、あのね…多分、ちょうどいいと思うの……毛糸もふかふかだし。ま、まだ2月だから着られると思うし…えっと、あ! 無駄遣いしたワケじゃないのよ…毛糸だと結構安いし」

 は。

 はやく、何か言って。

 ベラベラベラベラと、緊張しているせいで、言葉が止まらない。

 しかも、ロクな意味合いにはならなかった。

 普通ならもうちょっと、バレンタインのプレゼントなのだから、ロマンチックな言葉を言えばよかったのだ。

 そんな原料の金額とか、サイズについてとか、聞きたいワケではないだろうに。

 カイトの視線が、ゆっくりとセーターから動いた。

 スローモーションのような顎の動きが、しっかりとメイの方に向けられて。

 来る!

 ドキン、と心臓が高鳴った。

 彼に。

 抱きしめられるのではないかと思ったのだ。

 そういうオーラを、感じたような気がしたのである。

 本当に喜んでくれたのなら、彼はいつもそういう行動に出てくれたハズだ。

 だから、メイはそれを一瞬、期待してしまったのである。

 が。

 ばさっ。

 カイトは、セーターを掴んだまま、いきなり背広の上着を脱ぎ捨てたのである。

 えっ。

 そう、メイが思うまもなく、セーターが空中で踊った。

 カイトのワイシャツの腕が、その中につっこまれる。

 右も、左も―― 最後には頭も。

 ぐっと。

 手が出てきた。

 右も、左も。

 そして。

 髪の毛が。

 いや、顔が、首が出てきたのだ。

 カイトが。

 セーターを着ていた。
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