冬うらら2

 この。

 あたたかくて。

 おだやかで。

 優しくて。


「おーい…」


 しかし。

 カイトの心の中に珍しく芽生えた、ふわっとした柔らかいものは、ドアの向こうからかけられた声で、すべて台無しになった。

 思わず、彼女との大事な時間の象徴であるマグカップを、落としそうになってしまった。

 ばっとドアの方を睨む。

 そこは閉ざされたままだ。

 しかし、そのすぐ向こうに誰かいるのは間違いなかった。

 しかも。

 あの声は。

「おーい、開けてもいいか? もしかして…取り込み中か?」

 はっはっは、何しろ新婚だからなー。

 この声を―― 聞き間違うハズなどない。

 ソウマだ。

 しかも、内容の下世話なこと下世話なこと。

 この部屋の中で、まさしく今、情事でも行われているかのような聞き方である。

 いや、もし本当にそんな状況であったなら、今頃彼の命はない。

「もう、ソウマったら…」

 くすくす。

 おまけに。

 現れた悪魔は一匹ではなかった。

 ドアの向こうには、テレビショッピングよろしく、もう一匹ついてきているのだ。

 いや、正確には一匹半かもしれないけれども。
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