冬うらら2

「あ! キズオ!」

 ハナは、不機嫌のまま家に帰りついたが、門のところでケダモノを発見した。

 というか、こんな中古のオッサン車に乗ってる男は、他に知らなかった。

 車を見た瞬間に、既に気づいていたのだ。

 そのケダモノのことを、いつも彼女は『キズオ』と呼んでいた。

 見た通りの言葉だ。

 強面で傷なんかあるヤクザな顔の男は、『キズオ』で十分だった。

「いま帰りか、遅いな」

「おかえり…」

 最初の方が、キズオ。

 後の方が、三姉妹の長姉のユキ―― 1号である。

 送ってもらって、いま玄関先まで来ました、というカンジだった。

 こんなに遅い時間なのに。

「何? ホテルでも行ってきたの?」

 ニヤニヤ。

 はっきりきっぱり、いまのハナは機嫌が悪い。

 シャチョーが、招待状をくれなかったせいだ。

 だから、からかいの手も、非常に意地悪なものだった。

 この2人が、いかに真面目な男女交際をしているか知っていて、わざと言っているのだ。

「おいおい」

 キズオは苦笑だ。

「そっ、そんなんじゃないわ…今日は、大学のみんなと遅くなったから……危ないからってわざわざ迎えにきてくれたの」

 姉の方は、真っ赤になって大慌てで否定する。

 誰も、本気でホテルから帰ってきたとか、思ってもいないというのに。

「ふうん…それじゃあお別れのチューの邪魔しちゃったのね、私は…あははっ!」

 ぴょんぴょん跳ねるようにして2人をからかった後、彼女は逃げを決めることにした。

 姉はおとなしい性格だが、何年かに一度、ぷつんと行く時があるのだ。

 おとなしい人間のキレが、世界で一番怖かった。
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