冬うらら2

「ごめんなさい……すごく、落ち着かなくって」

 目の前にカイトが立つと、申し訳なさそうに耳を伏せて、彼女はぽつりと呟いた。

 一体、どうしてそんなに落ち着かないというのか。

 いつもの朝のはずだが、気になることでもあるのだろうか。

「だって、結婚式がすぐそこで…今日、リハーサルだし…」

 いろんなことが、頭の中に渦巻いているのか。

 言葉は、最後まで全部続けられることはなく、断片的な情報だけをカイトに投げて寄越す。

 しかし、それで十分だった。

 メイは。

 今から緊張しているのだ。

「別に…何が変わるワケでもねぇ」

 二人が夫婦であることは、神とやらが認めなくても事実だし、ずっと一緒に暮らしていくことに間違いなかった。

 カイトにしてみれば、必要のない行事だったのだ。

「だって!」

 しかし、彼女にとっては違う意味を持つのだ。

 強い口調の声が、それを明らかにしていた。

「だって! 結婚式の花嫁になるなんて…これが初めてだし。ウェディングドレスを着るのも初めてだし……」

 当たり前のことを、まだ緊張した唇で並べ始める。

 どれも初めてで、何の問題があるのか。

 それよりも、今更『実は結婚歴があるの』と言われようものなら、彼の方が卒倒してしまうだろう。

 だが、メイの表情は真剣だった。

 真面目に、緊張しているのだ。

「だってだって……一生に一度だし……」

 緊張しちゃう。

 カイトと。

 考えれば考えるほど、彼女は緊張のワナの中に落ちていき、網の中に閉じこめられたままあがいているのだ。
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