冬うらら2

「それにベストマンは、当日結婚指輪を預かる大事な役割もあるのよ」

 ね。

 ハルコの微笑みに、ソウマもにこっと笑った。

 そうなのだ。

 指輪は、彼の手にゆだねられるのである。

 すると。

 とんでもない―― と言わんばかりの睨みが、カイトから飛んできた。

 メイの方も、ぱっと自分の左手を隠すような素振りさえ見せる。

 どうやら、指輪を外したくないようだった。

「おいおい」

 何度も言うが。

 今日は、本番さながらのリハーサルなのだ。

 だから、指輪の交換も練習するのである。

 それなのに、外すのがイヤだ、はないだろう。

 2人の視線にさらされると、ソウマは自分が悪者にされたような気がした。

 だが、問題のある反応だった。

 気持ちが、指輪でつながっているとでも思っているのだろうか、この2人は。

 そんなものはなくても、思いがしっかりしていれば。

 なるほど。

 心当たった。

 まだ彼らは、心がしっかりつながっている気になっていないのだ。

 だから、指輪を外されることが、不安に思えるのだろう。

 指輪なんかなくても、誰もこの2人の間を壊すことなんか出来そうにないというのに。

 お前が、もっとしっかりしろ。

 カイトの方に、一瞬だけ睨みをきかす。

 ガンでも、つけられたと思ったのだろう。

 ますます、彼の表情が険しいものになった。

 アイコンタクトは、昔から不調な関係だったが、やはり未だにカイトと通じ合うことは出来ないようだ。
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