冬うらら2

「外すといっても、ほんのちょっとだけよ。それに…カイトくんに、指輪をはめてもらえるわよ」

 にこにこっ。

 一見、長引きそうな話題だったが、ハルコのうまい感情操作のスイッチが入れられた。

 すると。

 あっ。

 メイの唇が、そんな風に開いた。

 言われてそれに気づいた、という雰囲気だ。

 そして、ちらっとカイトの方を見る。

 どうやら、彼女の方は指輪をはめて欲しそうだった。

 無骨で、女慣れしていないカイトのことだ。

 指輪を自力で買ったのは上出来だったが、はめてやるなんて思いつきもしなかっただろう。

 ロマンティックの勉強を、もっとすべき男だった。

 講師なら、いつだってやってやろう、とソウマは構えているのに。

「てめーらは見んな」

 ぶすったれて。

 しかし、メイの視線の意味が、カイトも分かったのだろう。

 無茶なことを言った。

 当日は、もっとたくさんの人間の視線にさらされるというのに。

 けれども、まあ。

 指輪に対しては譲歩が見られたので、ヨシとしておこう。

 さて、次は。

「ほら、早く着替えて着替えて」

 進行係は、ハルコに任せていれば間違いない。

 エプロン姿のメイと、セーター姿のカイトを追い立てて、いい服に着替えさせようとする。

 ソウマたちだって、今日はめかしこんできたのだ。

 自分のネクタイを軽く持ち上げて見せて、こういう服に着替えろと無言の指示を出す。

 が。

「オレは、このままでいい」

 などと、カイトはまたも駄々をこねだすのだ。
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