冬うらら2

 わざわざ自分のメイクセットを、家から持参した気合いの入れようである。

 それから、細々したアクセサリーなんかも。

 気の利かないカイトと、ゼイタクをしないメイでは、そういうものを持っていないだろうということを、ちゃんと分かっているのだ。

 出来た妻である。

 そうして、あれよあれよという間に、彼女を連れ出してしまった。

「客間の方で準備をするわね。カイトくんの方は、よろしく」

 最後の置きみやげはそれで。

 部屋の方は気兼ねなく使っていいから、ソウマに残った方を任せた、と言っているのである。

 ただでさえ、一筋縄ではいかない男を二階に連れて行き、なおかつ、この愛のセーターをへっぱがせというのだ。

 猫に鈴をつけに行けと言われるよりも、もっと難しく過酷な作業だった。

 バタン。

 華やかな、女性陣がいなくなってしまうと。

 色気もへったくれもない、男2人が残されることとなった。

 さて、と。

 ソウマは、この新郎落第生を、立派に卒業させなければならない使命があるのだ。

 せいぜい、お手柔らかにしてやろう、と思いながら。

「さぁ、さっさとその服を脱いで、一張羅に着替えてこい。セーターじゃ、彼女のドレスとは釣り合わないだろう?」

 わざと素知らぬ風に、セーターを軽く指でつまもうとした瞬間。

「触んな!!!」

 バシッッッ!

 怒鳴り声つきで、思い切りその手が払われる。

 ガルルルルルルル。

『野生のエルザ』でも読んで、彼の生態を勉強しなければいけないようだった。


 まずは、群れに慣れさせるところから、か。
< 345 / 633 >

この作品をシェア

pagetop