冬うらら2

「さて…新郎くんの方の準備は出来たかしら」

 にこにこしている彼女と、一緒にその部屋を出る。

 すると。


 バタン!!!


 ちょっと先のカイトの部屋―― いまは2人の部屋のドアが、勢いよく開いたのだ。

「クソッ!」

 怒り心頭というカンジのカイトが、背広の上着を振り回すように掴んで飛び出してきたのである。

 結びかけまでできあがった、ネクタイのしっぽが、空中で踊る。

 さも忌々しそうに、カイトはそのネクタイを解いた。

 ただの、一本の紐の状態にしてしまったのだ。

「まあまあ、そう怒るな」

 後ろから、宥めるようなソウマの声がついてくる。

「てめ…っ!!!」

 更に後方に向かって、罵声の限りを尽くそうとしていたカイトの視線が、ぱっと廊下の彼女たちの方を向く。

 慌てて、目をそらしてしまった。

 だって恥ずかしいし!

 自分に言い訳をする。

 このドレスで恥ずかしいというのなら、本番のウェディングドレスはどうするのか。

 まだ、着たところをカイトに見せていないのだ。

「あら、ちゃんと着替えたのね…ふふふっ、並ぶとお似合いよ、きっと」

 そんな、メイの気持ちを知らないメイドオブオーナーに追い立てられて、カイトの横まで連れていかれてしまう。

 押し出されるように、突っ立ったままの彼の側に置かれる。

 じっと、カイトが自分を見ているのが分かった。

 コートなしでは寒い出で立ちをしているというのに、身体がその視線のせいで、火が出たみたいに熱くなった。
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