冬うらら2

 目の前を歩くソウマ夫婦は、ごく自然に腕を組んだ。

 それは、ハルコが妊婦であるためなのかもしれないが、あまりに自然で。

 ちょっとうらやましかった。

  うらやましいなら。

 メイの、心の中のもう一人がささやきかける。

  うらやましいなら、自分もすればいいのよ。

 階段。

  うらやましいなら――

 いいの、かな?

 彼女は、そっと右手を伸ばした。

 背広の上着を着ないままの、ワイシャツの左腕にそっと指先を触れさせる。

 彼の視線が、ぱっと向けられた。

 それに驚いて、引っ込めようとしたら。

 カイトの腕が伸びて、引っ張られる。

 そして。

 ソウマ夫婦たちと、同じみたいになった。

 べったりくっつくような腕の組み方じゃなくって、そっと預けるような。

 嬉しい。

 一歩、また前に進めたような気がした。

 こんなささいなことでも、メイは喜んでしまうのだ。

 ただ歩いているだけなのに、カイトの体温が手のひらを伝わってくる。

 ワイシャツ姿なのだから、なおさらはっきりとそれが分かった。

「しかし……」

 前を歩くソウマが、足を止めないまま、ちらと後ろを振り返った。

 瞬間、カイトが怒ったように毛を逆立てた。

 実際に逆立つワケはないのだが、触れている彼女には、そんな風な感触が伝わってきたのだ。

 腕が、ふりほどかれたりはしなかったけれども。

「ああいう時は、『綺麗だ』くらいは言ってやるもんだぞ」

 まったくおまえは、女心を分かってないな。

 半目で苦笑された結果、ますますカイトの感触が怒りに変わったのが分かった。


「盗み聞きしてんじゃねー!!!」


 彼が足を振り上げようとするのを、メイは慌てて止めなければならなかった。
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