冬うらら2
□72
 やってられっか。

 カイトは、ネクタイをむしり取りながら、タクシーに飛び乗って会社に来てしまった。

 ドアを開けて大股で開発室に入るや、スタッフの視線が一斉にこっちに投げられる。

 みな、何か言いたげだ。

 んなヒマがあんなら、仕事しろー!!

 明日が納期なのは、周知の事実だ。

 それを、すっぽかすような形で終わるのに、やはりカイトは耐えられなかったのである。

 当たり前のように、ガッと自分の椅子に座り、コンピュータを立ち上げた。

 しかし、現実問題として、今から具体的に何をすればいいのか分かっていなかった。

 現在の進行状況を、飛び入りのカイトが知るはずなどないのだ。

 その飛び入りという言葉でさえ、彼はムッとした。

 ここは彼の城であり、多くを把握していたいと思っていたのに。

 機嫌が悪いのは、この地点までたどりつくまでの様々な経緯。

 式場では、背中にびっしょり汗をかくほどの、リハーサルをやらされたのだ。

 しかも2人きりではなく、ハルコとソウマもいる。

 挙げ句、両親までご登場とあっては、ただでさえ深い眉間のシワが、更に深く刻まれることとなった。

 かなりのヒットポイントを奪われながらも、何とかそれが終わった後。

 まだ、カイトの災難は続いていた。

 これから集まったみんなで会食、などという話が持ち上がったのだ。

 いや、それは最初から予定されていたことだったに違いない。

 でなければ、どうして既に店が予約されているのか。

 結婚式前の会食のことを、何とかというカタカナで言われたが、そんなカタカナなどどうでもよかった。

 そんな、くだらないことで時間を費やすより、いまの切迫した仕事の方が、余程大事だったのだ。
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