冬うらら2

 慌てて視線をそらして、その車をやりすごそうとした―― が。

 急ブレーキで、車が止まったのだ。

 えっ。

「メイ!」

 車のドアが開くなり、大声が自分を呼ぶ。

 暗くてよく見えないが、あの声を、自分が聞き間違うはずがなかった。

「カイト…」

 ほっとして、たたたっと駆け寄る。

 怖い人だったらどうしようかと思ってしまったが、よく考えれば、この道に入ってくるのだ。

 彼であってもおかしくない。

 お仕事、終わったんだ。

 嬉しい気持ちをいっぱいに側まで寄ると。

 カイトが。

 険しい表情をしているのが分かった。

「あっ、あのね…ちょっとそこのコンビニまで…今日あの…夕ご飯…作れなかったから」

 ごめんなさい。

 こんな夜に、外をフラフラしていたのに怒ったのだろうか。

「乗れ!」

 そのことを言及することはなかったが、彼の声が強い音を作る。

 その吠え声に追われて、メイは慌てて助手席側に回った。

 運転席のカイトのオーラは、やっぱり怒っているように見えて。

 彼女は、小さくなっているしか出来なかった。

 車はUターンして、大通りの方に出る。

 しかし、コンビニは素通りだ。

 お弁当屋さんも素通り。


 重い沈黙のまま―― また、外食になった。
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