冬うらら2

 カイトは、怒ってはいなかった。

 深夜までやっているファミレスの席で、彼女がすっかり小さくなっているのを見て、言いにくそうに『怒ってねぇ』と言ってくれたのだ。

 それにホッとした。

 きっと、心配してくれただけなのだろう。

 思えば、明日結婚式なのだ。

 いくら、夕ご飯のことがあったからといって、彼女の行動は不用意だったのかもしれない。

 もし何かあったら、明日の予定に関わるではないか。

 そうなったら、カイトにもソウマたちにも、ほかのたくさんの関係者にも迷惑がかかる。

 もっと、ちゃんと考えなくちゃ。

 ついつい、目先の大事さにとびついてしまう、自分の浅はかさにゲンコツを入れる。

 それと、この緊張グセに。

 うっ。

 しかし、それに関して言えば、家に帰りついてもまだ、全然はがれ落ちていなかった。

 心の中の緊張感の糸は、張り巡らされたまま彼女を取り囲んでいるのである。

 きっと、リハーサルの時からすでに、メイはからくり人形のようだったに違いない。

 右足とか左足とか、ちゃんと頭で考えないと動かないような気がするし、考えれば考えるほど、ぎこちなくなってしまうのだ。

 一生に一度のこと―― というプレッシャーも押し寄せる。

「お、お風呂入ってくる…」

 あんまり緊張していることがバレると、またカイトに心配をかけてしまう。

 つとめて落ち着いたフリをしながら、彼女はバスルームへと逃げ出した。

 温かいお風呂の中なら、少しは身体もほぐれるのではないか、と希望を抱いてもいた。

 なのに。

「きゃあっ!」

 ガッシャン!


 やってしまった。

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