冬うらら2
□74
 何で。

 イライラする。

 何で、そんなにキンチョーしてんだ、と。

 皿を割ったり、フライパンをひっくり返したり。

 夜遅く、コンビニに買い物に出たり。

 挙げ句。

「メイ!」

 こうやって風呂場に飛び込むのは、これが2回目だ。

 前は、彼女が風呂でのぼせてしまった時。

 しかし、今回はお風呂に行ってから、ほんのわずかしかたっていない。

 バッと、すりガラスのドアを開け放つと。

「キャアッ!!」

 別の意味で、悲鳴があがった。

 明るいバスルームで、彼女は洗い場に座り込んだまま、身体を隠そうと必死の様子だ。

 側に転がっているのは洗面器。

 どういう状態だったかは分からないが、どうやらその辺りで滑ったか転んだかしたらしい。

「だっ、大丈夫…ご、ごめんなさい」

 身体をかばうように、背中を向けられる。

 白くて小さな背中。

 彼女は、そうしてカイトから自分を隠してしまおうとするのだ。

 肩を震わせて。

 クソッ!

 カイトは。

 服のまま、バスルームに入り込んだ。

 一歩目から水たまりを踏んだらしく、冷たい感触が靴下を通して足の裏に伝わったが、そんなことも気にしなかった。

 それよりも、今もっとカイトをとらえているものがあったのだ。

 何で、何で!

 へたりこんでいる彼女の身体を捕まえると、ぐっと抱え起こす。
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