冬うらら2

「手…握ってもいい?」

 暗くしたベッドの中で、彼女はお願いするように言う。

 風呂場での出来事から、何とか落ち着きはしたものの、不安は完全に払拭されていないようだ。

 無造作に片手を伸ばすと、飛びつくように両手で触れてくる。

 彼女のやわらかい手のひらに包まれると、カイトの方が落ち着かなくなりそうだった。

「もっと側によっても…いい?」

 ぐいと抱き寄せる。

 明日は、早く起きなければならない―― それは、さんざんソウマから言い含められていた。

 だから、今夜くらいは我慢しようと思っていた。

 彼だって、自制しようと努力しているのだ。

 だから、あまり挑発されると困る。

 本人にその気がなくても。

 そのまま、しばらく無言だったので、眠ったかと思ってほっとしていると。

「カイト…起きてる?」

 そっと呼びかけられる。

「ああ」

 短く答えた。

 抱きしめている腕の力を抜いていないのだから、それは彼女も分かっているだろうに。

「私ね…子供の頃、ずっと不思議に思っていたことがあったの」

 その腕の中で、ぽつりと言葉が落ちる。

 メイも、眠れないのか。

『緊張虫』用の殺虫剤でもあればいいのに、この世にはそんな便利なものはない。

「シンデレラは、お城の舞踏会で、転ばなかったのかなって…ほら、ダンスを踊るじゃない? 王子様と…ずっと掃除や洗濯をさせられていた彼女が、いきなりあんな大きな広間で、みんなが見ている前で、転んだり王子様の足を踏んづけたりしなかったのかなって…それが、ずっと不思議で」

 胸の中に、唇を埋めるような声だ。

 直接、カイトの心臓と話をしているかのように感じる。

 彼の鼓動の速度を、聞かれるんじゃないかと思うくらいだった。
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