冬うらら2
☆76
「あっはっはっは……」

 おかしくてたまらない笑いと共に、ソウマは新婦の控え室をノックした。

 いくら支度が済んだからとは言え、彼は女性の園に無粋に立ち入るような男ではないのだ。

 たったいま。

 その無粋男を、からかってきたばかりだった。

 こんなにおかしいことはない。

 そりゃあもう、予想以上の反応だった。

 見事に報復は食らったものの、ここまで笑わせてくれたのだ。

 チャラにするよりも、ソウマの方がお釣りを払いたいくらいである。

 さてさて、誓いのキスが見物だ。

 あの忠告を聞いて軽く済ませることが出来るか、新婦の可愛さに吹っ飛んで人前で自爆するか―― どっちにしろ、ソウマに幸せを振りまいてくれることだけは間違いなかった。

 あの男が、そつなく人前の誓いのキスをこなせるとは、到底思えなかったからだ。

「何を笑ってるの…?」

 クスクス笑いの声で、控え室の扉が開く。

 誰あろう、彼の妻だ。

 薄青いドレス姿で、一段と綺麗になっている。

 身体の関係上、締め付けないデザインだが、とても妊婦に見えなかった。

 このままもう一度、式を挙げたいくらいである。

 その気持ちをこめて、軽く頬に挨拶のキスをした。

 しかし、2回目になる彼らは、今日は遠慮すべきだ。

 ちらりと奥の方を見やると、ヴェールを深くかぶって椅子に腰掛けている新婦の姿があった。

 顔ははっきりとこの距離では見えないが、その全体的な姿を見るだけで、思わず口笛を漏らしそうになる。

 この瞬間の女性だけは、かなり特別な存在に見えるものだ。

 勿論、それは自制した。

 彼女に向かって、そんな安っぽい反応をしただけで、呪いそうな男を知っていたのである。

 今頃、教会の中でイライラしているに違いないのだ。
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