冬うらら2

 そんな、今日の主賓に声をかけようとするより先に。

「まあ!」

 ハルコが、驚いた声をあげた。

 何事かと思って、彼女の方を見ると―― 驚きの後に、おかしくてしょうがないという顔になって。

「また、カイトくんをからかったわね」

 妻は、お見通しと言うわけだ。

 一体、どんな証拠が残っているかと思いきや、パンパンとソウマの背中を叩きだした。

「くっきり残ってるわよ…27センチの足形が」

 まったくもう。

 苦笑混じりに、かなりしつこく背中をはたかれた、ということは、予想以上の足形だったワケだ。

 身長は違うのに、ソウマと同じ足のサイズというところが、生意気なカイトらしかった。

「いや…まあ、その…」

 詳しい経過は、家に帰ってゆっくり話してやろうと思っていた。

 挙式前の新婦に、大きな声で聞かせる内容ではないからだ。

『蹴られない程度にからかう術を知っているくせに、いつもギリギリまで踏み込んでいくのが、あなたの悪いクセよ』

 カイトに、予定よりも大きな反撃を食らってしまった時は、いつもそういう言葉でたしなめられる。

 しかし、このギリギリがやめられないのだ。

 ブルドックのつながれている鎖の半径に、どこまで近づけるか。

 そんな、子供時代の名残だろうか。

 ソウマの中にも、まだまだ子供じみた感性が残っているようである。

 いや。

 まだ子供時代の方が、やっていることはおとなしかったような気がする。

 何でもそつなくこなすのが、自分の対外的なスタイルで、無意識にそれを保持しようとし続けてきたのだ。

 ソウマの中にも、自分が求める『かっこいい男』、というデザインは存在するのである。

 それを求めているうちに、こんな男になっていたのだ。
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