冬うらら2

 いろんなことが、かなり自分でコントロールできるようになっていた。

 それは、人生を楽しめる大きな力ではあったのだが、それだけでは、本当に自分の望む男ではないような気がしていた。

 対外的な女性には、『優しい人』のレッテル程度でも全然オーケィだったが、この妻にだけは、いつまでも『男』と思われていたいのだ。

 彼の頭の中で、妻が占める割合が上がりそうになった瞬間、猛犬注意の看板の陰からブルドッグが飛び出してきて、物凄い勢いで吠えたてた。

 いまも、きっとまだカッカしているに違いない男の顔が、頭をよぎったのである。

 可愛いブルドッグだったな。

 さっきのカイトの様子を思い出してしまい、また笑いがこみあげてきた。

 が、いつまでもこうして、のんびりしているワケにはいかなかった。

 他の誰より我慢の効かない男で、あんまり待たせると教会内で騒動を起こしかねなかった。

 ストッパーの役目であるソウマが、こんなところにいるのである。

 周囲の人間は、さぞや取り押さえるのに苦労するに違いない。

「さて」

 もう一度、乱れてもいない襟を正す。

 今日の彼は、新婦の父親代理なのだ。

 彼女の父親は、もうこの世には存在しない。

 知らない相手ではあるけれども、ここはその人に向かって敬意と、ほんの少しの間だけ、大事にお預かりするという気持ちをしっかりと胸に抱えて。

「行こうか」

 ソウマが新婦に近づくと、ヴェールがこくりと上下に動いた。

 ハルコが、椅子から立ち上がる手伝いをしにいく。

 裾や足元を、もう一度確認するように動かして。

「すごく、綺麗よ…だから心配しないで」

 下からヴェールの中を覗き込むようにしながら、励ましの言葉をかける。

 ということは、彼女はかなり緊張しているということか。

 その上、慣れない格好と慣れない靴と―― 女性は大変だ。

 男の身綺麗など、知れたものだと思った。

「は…い…」

 震える声で、何とか返事をしましたというカンジで。

 見事な緊張さ加減だ。
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