冬うらら2

 え?

 メイは、目を疑った。

 ヴェールで出来た白い霞の視界に、誰かが動いているのが見えたのだ。

 しかも、大きな足音つきで。

 一歩の迷いもなく、近づいてくる姿は。

 カイト…?

 最後まで、思考で確認することもできなかった。

 その存在は、すぐそばまで来るやいなや、いきなり彼女の腕を奪い取ったのだ。

 さっきまで、支えてもらっていたソウマの身体から、もぎはがされるように腕を捕まれる。

 こんな強引で力強い動きをする人を、メイは他には知らなかった。

 カイトに違いない。

 だが、やっぱりゆっくり考える暇がなかった。

 腕を捕まれた後は、今度はぐいぐいと引っ張られたのだ。

 きゃあっ!

 悲鳴は、声にはならなかった。

 はき慣れない踵のある靴と、足元まで覆っているドレスが、とにかく彼女の邪魔をしようともくろんでいるというのに、そんなことお構いなしで、カイトはどんどん彼女を引っ張っていくのだ。

 参列の人たちの驚いた顔が、飛ぶようにすぎていく。

 すべて早回しで、何も考えているヒマなんかない。

 とにかく、もつれる足を精一杯動かし続けたのだ。

 そして。

 ようやく、疾走のヴァージンロードが終わったのだった。

 心臓が暴れているのは、さっきの疾走のせいか―― それとも緊張のせいだったのか、もうどっちなのか分からなくなってしまった。

 いま、彼がどんな風な表情をしているのか確認したくて顔を向けるが、ヴェールの間接的な視界からは、怒っているような表情にしか見えなかった。

 けれども、カイトのこの表情は、微妙に幾通りもの気持ちが詰まっているのだ。

 じっとよく、細かく観察しないと分からないのに。

 だが、メイは新郎の方をじっと見ていることは出来なかった。

 気づけば、すでに祭壇の前だ。

 神父様の、目の前まで来ていたのだ。

 あっ。

 彼女は、思わず縮こまってしまった。

 ヴァージンロードを疾走してきた新郎新婦なんて、いままでいなかったに違いない。

 恥ずかしさが、カァっと込み上げてきたのだ。


 おかげで、またも神父様の広い心を見せてもらえることとなった。
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