冬うらら2

 ヴァージンロードを逆走してくる新郎の顔には、『触んな!』とデカデカと書いてあった。

 しかも、筆文字で。

 オレにまで、嫉妬するな。

 爆笑と苦笑が、同時に込み上げてきて、ソウマはそれをこらえるのに大きな苦労を強いられた。

 嫉妬対象から、ハルコの次くらいに外されてもいいくらいだ。

 男の中で、シュウとは別の意味で、こんなにも無害な人間はいないではないか。

 自分が、ハルコ以外の女性に心を奪われる日がくるなんて、想像だにできなかった。

 などと、妻への愛を再確認している間に、キングコングは眼前にまで迫り、ひったくるように新婦を奪ってしまった。

 このまま、抱えてビルを登って欲しいものだ。

 やれやれ。

 カイトだって、一応我慢しようと色々努力はしていたのだろうが、早速キレてしまった。

 まあ、そのまま逆走して教会から逃亡しなかった分、理性が残っているのだろう。

 いま逃げられると、さすがに後のフォローは出来ないので、ヨシとするか、とソウマは自分を納得させた。

 納得させる頃には、走り抜けた新郎新婦は、祭壇の前まで到着してしまった。

 いろんな最速新記録に、挑戦しているのではないかと思うくらいだ。

 出会って、結婚するまでの期間。

 ヴァージンロードの川を、渡りきるまでの時間。

 短気なカイトにかかれば、すべて早回しだ。

 タキシードの背中に、『とっとと始めろ!』とやはり大きな文字で書いてあり―― 結婚式自体が、波乱に包まれることを予感させた。

 後で、神父様には十分お詫びをしておかないといけないだろう。

 そして、言われるのだ。

『こんな式は、初めてですよ』と。

 そんなの。


 ソウマだって初めてだった。

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