冬うらら2

 まあまあ。

 メイドオブオーナーは、呆気に取られた。

 ヴァージンロードを逆走してまで、新婦を奪回しようという男が現れたのである。

 着慣れないタキシードと、いやな環境に追いつめられて、逆上したのではないかと、一瞬ハルコは心配になってしまった。

 いくら逆上したとしても、メイを置き去りにしていく男ではない。

 ばっと、ソウマから花嫁の腕を掴むと。

 はぁ。

 本当に。

 自分のものにしたくてしょうがないのねぇ。

 早速、予定外の事件が起きて、ハルコは笑みを浮かべてしまった。

 ただの過保護や、猫可愛がりとは違う。

 カイトは、彼女の中を自分でいっぱいにしたいのだ。

 いっぱいにしたい―― 要するに、いまはまだいっぱいにしていないと思っているのである。

 どう見ても。

 ハルコは、どうして分からないのか、不思議でしょうがなかった。

 あんなにメイは、彼のことを思っていて。

 おそらく、カイトが希望するボーダーラインくらい、とっくに越えるほど好きでいっぱいになっているというのに。

 そして、逆も然りだ。

 カイトの方が、もう明らかに彼女でいっぱいになっている。

 いままで持っていた価値基準のすべてが、大きく変わってしまったのだ。

 それなのに本人たちだけが、相手がいつかどこかに連れ去られてしまうのではないかという、心配ばかりしているのである。

 不思議なものねぇ。

 あんなに、お互い熱烈に思い合っているのに、どこか噛み合っていないなんて。

 まあ、もう少ししたら落ち着くでしょう。

 ふふふ、とハルコは笑った。

 せっかく籍は入れたのに、結婚式を挙げるための準備で、ロクに穏やかな二人の時間も取れなかったのである。

 きっと、新婚旅行から帰ってくる頃には、少しは落ち着くに違いなかった。

 1週間二人きりなのだ。

 行き先は、南の島―― の前に、ヴァージンロードを駆け抜けた夫婦1年生が、この式を無事やり遂げることを考えるのが先決のようだった。
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