冬うらら2
指輪の交換
□79
「ここで、結婚の誓約の印に指輪の交換を致します」
近くに控えていた、指輪を預かっていた子供が、危なっかしい足取りで近づいてくる。
抱えている座布団のようなものの上には、彼らからひきはがされた指輪が1対載せられていて―― もう一度、これから互いの指に戻るのだ。
それに、カイトは少しだけほっとできた。
たかが指輪。
されど指輪。
はめる前までは、そんなチャラチャラしたものと思っていたのに。
一度はめてみると、会えない間も彼女の存在を感じさせてくれる、大事な物証に思えた。
指輪がある限り、彼女と結婚したという事実は、夢でも幻でもないのだと分かるのだ。
リハーサルの時と、この本番。
今まで2回、指輪を失った。
しかし、そんな強制もこれが最後だ。
「写真を取られる方は、前の方においでください」
進行の声が、そんなことを付け足した瞬間。
カイトの背筋には、ゾッとする冷たいものが。
そして、席の方からは一斉に何人かの男女が、カメラを片手に近づいてくる気配が分かった。
メイの方を向く必要があったので、身体を横の方に向けた時―― そのイヤな光景が、無理矢理視界に入ってくる。
今日はその役柄のせいで、所定の位置におさまっていなければならないはずのソウマでさえ、一眼レフ持参で現れたのだ。
興味もないはずなのに、何故かシュウさえいる。
べったり化粧を塗りたくった、母親の顔さえも見えた。
だらだら。
気色の悪い汗が、一気に背中に集中する。
「ここで、結婚の誓約の印に指輪の交換を致します」
近くに控えていた、指輪を預かっていた子供が、危なっかしい足取りで近づいてくる。
抱えている座布団のようなものの上には、彼らからひきはがされた指輪が1対載せられていて―― もう一度、これから互いの指に戻るのだ。
それに、カイトは少しだけほっとできた。
たかが指輪。
されど指輪。
はめる前までは、そんなチャラチャラしたものと思っていたのに。
一度はめてみると、会えない間も彼女の存在を感じさせてくれる、大事な物証に思えた。
指輪がある限り、彼女と結婚したという事実は、夢でも幻でもないのだと分かるのだ。
リハーサルの時と、この本番。
今まで2回、指輪を失った。
しかし、そんな強制もこれが最後だ。
「写真を取られる方は、前の方においでください」
進行の声が、そんなことを付け足した瞬間。
カイトの背筋には、ゾッとする冷たいものが。
そして、席の方からは一斉に何人かの男女が、カメラを片手に近づいてくる気配が分かった。
メイの方を向く必要があったので、身体を横の方に向けた時―― そのイヤな光景が、無理矢理視界に入ってくる。
今日はその役柄のせいで、所定の位置におさまっていなければならないはずのソウマでさえ、一眼レフ持参で現れたのだ。
興味もないはずなのに、何故かシュウさえいる。
べったり化粧を塗りたくった、母親の顔さえも見えた。
だらだら。
気色の悪い汗が、一気に背中に集中する。