冬うらら2

 ヴェールが持ち上げられると、彼の姿がようやくはっきりと見えた。

 いままでずっと側に立っていたのに、こんなにしっかりと彼の顔を見たのは初めてだ。

 間接的な視界という、もどかしさがなくなって、いきなり何もかもがクリアになると、心までそうなってしまったかのように思える。

 怒ったような表情も、本当に怒っているのではないと分かるのだ。

 この現状を、笑顔で受け入れられないのだろう。

 けれども、本当にイヤだと思っているなら、きっと彼は承諾したりしなかったハズだ。

 私のため?

 思ってしまって、都合のいい解釈をしている自分に気づいて、はっと戒めかけた。

 けど。

 結婚式のこの日くらい、少しくらい夢見たってバチは当たらないはずだ。

 カイトは、自分のことをとても愛してくれていて、自分も彼のことをすごくすごく愛していて。

 結婚式の当日である今だけは、彼女は怖がらずにそう思うことに決めた。

 一生で、たった一日だけに適用される、フリーパスのようなものだと思ったのだ。

 お姫様役の人は、王子様の愛を信じているのだから。

 カイトが、身体を傾ける。

 彼の顔が近づいてきて。

 目を閉じる。

 唇に、柔らかく触れられる。

 吐息を感じた。

 ああ。

 どうせなら―― いま、この瞬間に死にたかった。
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