冬うらら2

 笑えだぁ?

 カイトは、ますます汗をかいた。

 式場に来てからは、本当にこんなことばかりだ。

 誰も彼もが、2人をイヤでも祝福し倒そうと思って待ちかまえている。

 そのたびに、カイトが何もかも台無しにしたい衝動にかられているということを、みな知っているのだろうか。

 その上、カメラマンは商売というだけで、別に彼らの知り合いでも何でもないわけで。

 発言の数々は、全部仕事として発せられているのだろう。

 そんな金絡みの言葉に、ひねくれたカイトの心が動くはずがなかった。

 しかし。

 カイトには、さっきの指輪の交換で、ヴェールを上げ忘れたという負い目があったのだ。

 本当ならば、メイの顔くらいは綺麗に映っていたはずなのに。

 クソッ。

 見せ物になるのは死ぬほどシャクだった―― が、たった1枚くらい、彼女だって望み通りの写真が欲しいのではないだろうか。

 カイトの昔の写真だって、母親からもらって喜んでいた彼女なのに。

 わ…笑えってのか?

 いきなり、プレッシャーがずーんと押し寄せる。

 笑顔のクセがついている人間は、きっと顔の筋肉が『笑顔用』、というルートを覚えているに違いないのだ。

 カイトのように、眉間のタテジワなんかに特殊ルートが組んである人間にとっては、かなり険しい道のりだった。

 眉間に寄せるはずのシワを、別の方向にもってこなければならないのだから。
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