冬うらら2

 いざ、「あなたって人は…」と言おうとしたのに。

 女の子たちの群れが、その迫力に押されたのか、道が出来るように一カ所だけ割れた。

 あら。

 その気配に、ハルコが視線を向けると。

 魔王だわ。

 最初に、そう思った。

 いつも、彼に対する一番最初の印象は、それだ。

 鋼南の同業者の社長でもあり、彼らの同級生でもある長い黒髪の男。

 あの時。

 お姫様の相手役の、魔王をやった同級生。

 あの劇以来、ハルコの中での彼の名前は、それになってしまっていた。

 鋼南電気の秘書をしている時、数回見かけたくらいで、現在も親しいワケではない。

 学生時代以来、しゃべった記憶もない―― というか、学生時代もほとんど覚えていなかった。

 覚えているのは、劇のセリフばかり。

 魔王の役ということで、余りに雰囲気がぴったりだったので、推薦で一瞬で決定してしまった彼だったが、独特の雰囲気のおかげで、セリフも少なくて済んだ。

『姫……』

 一番覚えているのは、その言葉。


 そして、その時に呼びかけた相手は──

< 414 / 633 >

この作品をシェア

pagetop