冬うらら2

「あっか~ん! やっぱ間に合わんかった!」

 式場前に到着したタクシーから飛び降りると、いかにも式は終わりましたという人たちが、教会前に大勢いた。

 その中には、鋼南電気の副社長の顔も見える。

 あのメガネのニーさん、苦手や。

 鋼南電気の副社長は、ソロバン弾くだけで世界を動かせると思っていそうなタイプなので、どうにもタロウとは話が合わないのだ。

 だから、こそこそと人波に隠れる。

 あたかも、最初からいたかのような顔で、このまままぎれていようと思ったのだ。

 ところで。

 きょろきょろした。

 主役の新郎新婦はどこに、おんねんな~?

 見れば、教会の扉の前に、ウェディングドレス姿が見える。

 どうやら、あれが奥方らしい。

 遠目なのではっきりと見えないが、美人のようだった。

 ちなみに、タロウにかかれば、黒髪の女性は黒髪美人。

 赤毛の女性は、赤毛美人という形容になる。

 要するに、女性=美人、なのだ。

 しかし、新郎の姿が見えない。

 もっとキョロキョロすると―― 隅の方で、何か怒鳴っているような声が。

 おお! あれや!

 鋼南電気の社長の怒鳴り声は、耳にしっかり焼き付けてある。

 実力主義者で、きっついことを言うこともあるが、要は実力さえあれば文句は言わない男で、タロウにとっては仕事のしやすい相手だった。

 その鋼南の社長は、誰かに向かってぎゃんぎゃん怒鳴っている。

 なんか。

 タロウは、自分の遅刻が全然問題ないような気がしてきた。

 よく周囲を観察してみると、誰もいきなり現れた丸メガネのうさんくさい遅刻者に興味を示すでもなく、怒鳴っている新郎に注目しているのだ。

 けったいな、結婚式やなぁ。


 驚きながらも、ちょっと好都合な展開に、ニヤリとしてしまうタロウだった。
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