冬うらら2

 披露宴が始まる前に、ちょっと挨拶を。

 リンはそう思って、1人で控え室に向かおうとしたのだ。

 だがしかし。

「おねーちゃんとこに行くのー!!??」

 息子に捕まってしまった。

 メイの結婚には、ショックを受けていたようだったが、相手が鋼南電気の社長と知った時、ユウの目はキラーンと輝いたのだった。

 リン自身は、テレビゲームはしない。

 だから、子供たちにとってその会社が、一体どういう位置にあるのかが分かっていなかった。

 それを、うっかり口に出したのがいけなかったのだ。

 その日からずっと、鋼南電気の会社が出したゲームの名前や、どういう話かをこと細かに説明し始めたのである。

 あの、マシンガン&甲高い声で。

 その勢いを、勉強だかスポーツだかの方に回せばいいんだけどねぇと、ため息をつきたくなるほどの熱心さだった。

 別にリンは、ガリ勉息子が欲しいワケではない。

 できれば、肉体的にがっちりとした、スポーツマンになって欲しかった。

 昔から肉体派の男が好きだったが、その趣味は今も変わっていないのだ。

 そういう意味で、ダンナは理想通りの体型である。

 リンの高い身長よりも、もっと高い男を捕まえられたのも、かなり奇跡に近いだろう。

 といっても、いつもその奇跡とやらは、ご近所にいたのである。

 八百屋と魚屋という商売柄、物々交換がよく起きていた。

 向こうが白菜や大根を持ってくると、こっちはアジやサバでお返し、ということになる。

 そんなところに奇跡が落ちているなんて、子供の頃には思いもよらなかった。

 お互い、子供の頃は貧弱な身体だったのだ。

 先に身長が伸び始めたのはリンだった。

 同じ年であれば、女の方が成長が早いと言われるが、本当にその通りで。

 ぐんぐん大きくなって、中学を卒業する頃には、かなり身長差が出てしまった。

 この時点で、すでにリンは肉体派が好きだったために、マサは恋愛対象からすっぱりと外れてしまっていた。
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