冬うらら2

 人がいっぱい―― どころの話ではなかった。

 知っている顔を見つけるなんて心の余裕は、いまのメイにはない。

 とにかく、やたらたくさんの人が、自分たちを見ているのだ。

 椅子に座っていてよかった。

 でなければ、きっとその人の数に酔って、目眩を起こしてしまっただろう。

 街中には、もっとたくさんの人がひしめいている。

 それは、平気だ。

 そこにいる人は、別にメイに注目しているワケではないのだから。

 注目されるとしたら、盛大に転んだ時とか、バッグの中身をぶちまけた時とか、そのくらい。

 たくさんの人の前に、固まってしまいそうになったメイだったが。

 幸い。

 ぱっと。

 リンの顔が、視界に飛び込んできた。

 ああ。

 見慣れた知り合いの顔が、嬉しそうな表情で自分を見ていたのが分かったら、大きなリンゴのかけらが、胸から取れたような気がした。

 ほっとして微笑みかけたら、カイトの会社の社員さんが、祝辞を言うために立ち上がる。

 そうなのだ。

 顔は知らないが、彼の職場関係の人がたくさん来ているのである。

 チーフという肩書きが、一体どのくらい偉いのか、彼女には分からなかったが、その人の方に視線を向ける。

「社長が、こんな綺麗な女性を射止めてあったとは思ってもみませんで…今度、是非その手管を教授していただきたいと思っています」

 当たり障りのない言葉が続いていたのに、途中でいきなりそんなことを言われ、メイは赤くなってしまった。

 お世辞だと、分かっているのに。

 しかし、カイトの反応は違った。

 思い切り、むせかえってしまったのだ。
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