冬うらら2

 しかし、いざ乗り込んできてみれば。

 その女性を使用人扱いした彼は、カイトに烈火のごとく怒鳴られ、家を叩き出されてしまったのである。

 アオイにしてみれば、「なぜだ?」と理不尽も甚だしかった。

 使用人でないならないで、何故あの女性は、彼に嘘をついたのか。

 そうでないというのなら、どうしてカイトは、きちんと間違いを正す発言をしなかったのか。

 嘘をつかれたアオイとしては、まったくもって怒鳴られる筋合いなどなかった。

 かえって、自分の方が怒ってもいいくらいで。

 しかし、それではっきりと分かったのだ。

 あの男に、見合いなど持ってこようとした私が間違いだった、と。

 会社において、然るべき地位についたのだから、しかるべき女性を―― だが、あの男の中にある品性というものは、全く向上していなかったのだ。

 そして、こんなに余裕のない結婚をするなど。

 恥ずべきことだ、とアオイは思っていた。

 が。

 シュウに聞いたところ、妊娠の話はないというのだ。

 これには、首を傾げた。

 そして、当日。

 ソウマなら知っているだろうと、それとなく穏便に尋ねてみた。

 すると、ソウマはおかしそうに笑って、彼の気分を害させてくれたのだ。

「何がおかしい!」

 つい大きな声になりかけたアオイは、周囲を気にしてコホンと咳払い。

 それから、自分を取り戻したのだ。

「まあ、普通の人から見れば、そう見えるんでしょうねぇと思ったら……おそらく、残念ながらそれはないですよ」

 笑いに肩を震わせながら、彼の教え子は答えたのだった。

 むぅ。

 いきなり、アオイの完璧な推理は暗礁に乗り上げてしまったのだ。

「では、なぜ?」と聞いたのだが、ソウマは困ったような笑いに変えて言ったのである。

「話してもいいですけど…おそらく、教授の理解を超えるかと」

 つくづく失礼な教え子だった。
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