冬うらら2

 孕ませたのでないというのなら、一体何だと言うのだ。

 それから、アオイはずっと完璧な推理を求めていたのだが、まったくもって答えが出てこない。

 そこに、目下の者からの祝辞が始まったのだ。

 その内容ときたら、含蓄のあるようなことでもなく、心温まるようなものでもなかった。

 どちらかというと、友人代表としてしゃべられるようなものだ。

 私に任せておけば。

 忌々しく、彼はそれを思った。

 アオイであれば、もっと完璧に祝辞をこなすことができるだろう。

 大学の彼の講義も、うっとりと目を閉じて聞き入る生徒の何と多いことか―― その弁舌を、たとえ少々不出来な生徒であったとしても、反抗的な生徒だったとしても、美しいレースのヴェールをかぶせて語ることくらい、彼はお手のものだというのに。

 いろんな場で、講演することの多い立場だけに、アオイは自分の弁舌には自信を持っていた。

 大体。

 仲人もいないとは、何たることか。

 アオイは、この不揃いな披露宴に、様々なケチをつけていった。

 本来ならここで、仲人が二人の身上書を読み上げるのではないのか。

 生年月日、両親、学歴、職歴など。

 ううむ。

 そこで、アオイは思い当たった。

 カイトは、自分の学歴が、大学中退であることが恥ずかしくなって、仲人を立てず、身上書もナシにしたのではないかと思ったのだ。

 社長という立場であるのだから、社員の前でそのような忌まわしい過去を暴かれたくなかったに違いない。

 ううむ。

 またも、アオイは自分の推理にうなった。

 が。

 本当は、一番気になっているのは。

 何故、私の隣の席は、誰も座っておらぬのだ!

 招待客が来るように、きちんとテーブルセッティングはなされているというのに、まだ隣席の招待客は現れていないのだ。

 招待された宴席に遅れてくるなど、何たる失礼。

 せっかくの宴席だというのに、アオイはのっけから怒ってばかりだった。

 空いた席の席次表には、こう書いてあった。

『ダークネス 代表取締役社長 シン・イザナギ』
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