冬うらら2

 ふむ。

 シュウは、眼鏡の位置を直した。

 どうやら、アオイ教授はご立腹のようだ。

 祝辞に立ち上がった第一開発部のチーフを見てから、明らかに表情が変化したので、おそらく『適切ではない』と思ったのだろう。

 それについては、シュウも承知していた。

 せめて、重役クラス。

 もしくは、親類縁者の徳と年齢の高い人間に頼むのが、本来の祝辞の筋というものなのだろう―― と言うのが、『披露宴のすべて』という書籍にて学んだことであった。

 彼も、全ての方面に知識があるワケではない。

 しかし、この結婚披露宴は、ただの披露宴ではないのだ。

 鋼南電気株式会社の、社長としての披露宴なのである。

 だからこそ、あやまちのないように学習したのだ。

 スピーチとして使ってはいけない言葉、正しい席次表、などなど。

 本来、アオイ教授とシン社長のどちらを上座にするかで、シュウは実は悩んだのだ。

 現在の取引先という点で言えば、シン社長の方が重きに当たるのだ。

 だが、あの教授の性格である。

 自分の地位にふさわしい態度を取るべきである、という信条なのだ。

 シン社長が果たしてそのラインをクリアしているかどうかという点が、彼にとって問題だった。

 そこで、ソウマに相談したのだ。

 すると、一言で答えが返ってきた。

「教授は、一番上座にしておけばおとなしいだろう。それにシンは、自分の席の上下はまったく気にしないぞ」

 まったくもって、端的な答えだった。

 どちらが上に当たるかと聞いたのに、性格的なもので決定されてしまったのだ。

 シン社長は、ソウマの学生時代のクラスメートだった、ということもあるのだろうが、あまりに安易な答えだった。
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