冬うらら2
乾杯
□87
「心暖まる御祝辞をありがとうございました…新郎が、いかに会社で社員の方に好かれているかが、よく分かるお言葉で……」
司会の言葉に、カイトはすっかりむっつりしてしまった。
たとえ誰であっても、結局祝辞などという気色の悪いホメ言葉の連打には、耐えられないということが、これではっきり分かった。
仕事のようにライバル社がいて、憎まれるかもしれないという立場の方がよほどマシだ。
こんなところでは、反撃さえ出来ない。
存在のレベル自体が、すでに他の席の人間たちとは違い、まるで二人だけがガラスケースの中にいるような気分にさせられるのだ。
その上、こうやって一秒一秒、メイのことが、招待客の網膜に焼き付いているかと思うと、それもおもしろくなかった。
確かに、彼女はきれいだ。
カイトの口からは、軽々しく言ってはやれないが、それは心の中にくっきりと浮かび上がっているもので。
けれども、そう思うのは自分だけでいいのだ。
かといって、きれいじゃないとけなされても頭にくる。
どっちにしろ、彼は怒ってしまうだろう。
こうして、公共の場に彼女を置けばおくほど、自分だけのメイではなくなっていくような焦りを、彼は感じていた。
結婚式の時とは違って、自分たちがすることが余りに少ないせいだ。
ただ座っていればいいという現実が、ほかの余計なことを山ほど考えさせてしまうのである。
「続きまして、新郎新婦の前途を祝し、乾杯いたしたいと思います。乾杯のご発声を、新郎の勤務先であります鋼南電気株式会社副社長、シュウ・ミナミ様にお願い致します。皆様、どうぞお手元のグラスをお持ちになって、御起立下さいますよう、お願いいたします」
カイトの気持ちなど知らずに、勝手になごやかなムードになった時間が過ぎようとしている。
しかし。
なごやかも、きっとこれで終わりだ。
この時のカイトは、少しだけそれに感謝した。
何しろ。
あのシュウが、登場するのである。
「心暖まる御祝辞をありがとうございました…新郎が、いかに会社で社員の方に好かれているかが、よく分かるお言葉で……」
司会の言葉に、カイトはすっかりむっつりしてしまった。
たとえ誰であっても、結局祝辞などという気色の悪いホメ言葉の連打には、耐えられないということが、これではっきり分かった。
仕事のようにライバル社がいて、憎まれるかもしれないという立場の方がよほどマシだ。
こんなところでは、反撃さえ出来ない。
存在のレベル自体が、すでに他の席の人間たちとは違い、まるで二人だけがガラスケースの中にいるような気分にさせられるのだ。
その上、こうやって一秒一秒、メイのことが、招待客の網膜に焼き付いているかと思うと、それもおもしろくなかった。
確かに、彼女はきれいだ。
カイトの口からは、軽々しく言ってはやれないが、それは心の中にくっきりと浮かび上がっているもので。
けれども、そう思うのは自分だけでいいのだ。
かといって、きれいじゃないとけなされても頭にくる。
どっちにしろ、彼は怒ってしまうだろう。
こうして、公共の場に彼女を置けばおくほど、自分だけのメイではなくなっていくような焦りを、彼は感じていた。
結婚式の時とは違って、自分たちがすることが余りに少ないせいだ。
ただ座っていればいいという現実が、ほかの余計なことを山ほど考えさせてしまうのである。
「続きまして、新郎新婦の前途を祝し、乾杯いたしたいと思います。乾杯のご発声を、新郎の勤務先であります鋼南電気株式会社副社長、シュウ・ミナミ様にお願い致します。皆様、どうぞお手元のグラスをお持ちになって、御起立下さいますよう、お願いいたします」
カイトの気持ちなど知らずに、勝手になごやかなムードになった時間が過ぎようとしている。
しかし。
なごやかも、きっとこれで終わりだ。
この時のカイトは、少しだけそれに感謝した。
何しろ。
あのシュウが、登場するのである。