冬うらら2

 あらあら。

 ハルコは、苦笑した。

 いままでずっと笑顔だったのに、その笑顔がついにイヤなものに変化してしまったのだ。

 シュウが、しゃべり出してしまったのである。

 乾杯の音頭というのは、ちょこちょこっと前置きを言った後に、「乾杯!」だけ言えば済む役目なのだ。

 しかし、会社のCMをしておかなければならないという使命でもあるのだろうか。

 おかげで、延々と周囲の人にグラスを持たせて、立ち尽くさせているのだ。

 誰に似たのかしら。

 こういう長くつまらない演説は、アオイ教授のオハコだった。

 さすがに、みんな立っているので居眠りを初めてしまう人はいなかったが、内容的には教授とどんぐりの背比べだ。

 いつだったか、式の話をシュウとしていた時、『全て本で学習しましたので、大丈夫です』と言っていたのだが、一体どこの本を見たのか。

 教本がいけなかったのか、恩師がいけなかったのか。

 ふぅ。

 そうため息をついた直後―― はっと気づいたことがあった。

 隣の席にいたはずの、ソウマがいきなりいなくなっているのだ。

 ついさっきまで、確かに一緒にグラスを持っていたというのに。
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