冬うらら2

 おーお、無理してるな。

 ソウマは、カメラの中の新郎の表情に注目していた。

 新婦には耐えられることでも、この男には耐えられないことが、この空間には山ほど用意されているのだ。

 何とか、新婦にケーキを食べさせ終えたカイトは、今にも心不全で倒れそうな様子だった。

 緊張なのか興奮なのか分からないが、呼吸が乱れている。

 しかし、彼はカメラから目を離したりしなかった。

 指輪の交換の時のしくじりが、まだ尾を引いているのだ。

 あの失態のせいで、ハルコに残念な顔をさせてしまった。

 なのに、シュウが見事に撮影したという話を聞いて、ぱっと表情が明るくなった。

 ムッ。

 頼れる夫としては、これ以上の失敗は許されないのだ。

「では、次に新婦から新郎に…」

 ふっふっふ。

 ソウマは気を取り直して、シャッターに乗せた指に力を込めた。

 いつでも、指を踏み込ませる用意をしているのだ。

 あのカイトが―― ケーキを食べる。

 その決定的瞬間は、絶対にカメラに納めなければならないのである。

 あのカイトが、あのカイトが!!!

 何度も言うが、本当にその言葉に尽きる。

 甘いもの嫌いの彼が、というのもあったが、人前で女にケーキを食べさせてもらうという、スペシャルな条件が777ほど揃っているのだ。

 こんなことは、本当に一生に一度だけだろう。

 他の環境であれば、絶対にカイトがその条件を飲むことはない。

 だが、今日の相手はメイである。

 絶対、ケーキを食べる―― に、全財産賭けたってよかった。

 手袋を外したメイの白い指が、震えるような動きでケーキを取る。

 もう片方の手を、ケーキの屑がこぼれないように添えると、そっとカイトの方に運ぶのだ。
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