冬うらら2
祝宴
#89
コホン。
アオイは、咳払いをしながら高砂に近づいた。
自分の存在を、アピールするためだった。
披露宴に招かれたのだから、個人的に祝辞の一つでも述べなければならないという義務感が、彼の中にはあったのである。
この祝宴の時間が、一番それにふさわしい時間のように思えた。
いろいろと、思うところのある披露宴なのだが、一応祝いの席だ。
大人の立場としては、冷静な対応が必要だろう、と自分に言い聞かせる。
ジロッ。
そんな彼の心など知らずに、視線を向けたカイトの目の色は、かなりよろしくないものだった。
「もう少しよい表情をしたらどうだ…せっかくの披露宴であろう」
祝辞を言うつもりだったのに、ついつい普段の調子でこのようなことを言ってしまう。
いつもなら、ここでカイトは『別に、おめーに来てくれなんて頼んでねーだろ!』などと怒鳴るのだが―― 今日に限って言えば、無言のまま視線を横に向けてしまうだけだった。
ほぉ。
少しは、辛抱強くなったようだな。
遅い進歩ではあるが、確かに進歩には違いない。
それには、わずかではあるが、アオイは感心した。
これなら、祝辞の一つでも聞く耳を持っているかもしれない。
「夫婦と言うものは……ワインのようなものだ」
もしもスピーチを頼まれたのならば、アオイはこう言おうと思っていた。
とっておきの比喩である。
カイトが横を向いていても、この距離だ。
聞いているのは明白で。
「時間がたてばたつほど、発酵して味わい深い素晴らしいワインになる」
チラリ。
カイトを見ると、相変わらず横を向いてはいるものの、その顔はピクリとも動かなかった。
目は違うものを見ているようだが、特定のものを追っている様子はない。
コホン。
アオイは、咳払いをしながら高砂に近づいた。
自分の存在を、アピールするためだった。
披露宴に招かれたのだから、個人的に祝辞の一つでも述べなければならないという義務感が、彼の中にはあったのである。
この祝宴の時間が、一番それにふさわしい時間のように思えた。
いろいろと、思うところのある披露宴なのだが、一応祝いの席だ。
大人の立場としては、冷静な対応が必要だろう、と自分に言い聞かせる。
ジロッ。
そんな彼の心など知らずに、視線を向けたカイトの目の色は、かなりよろしくないものだった。
「もう少しよい表情をしたらどうだ…せっかくの披露宴であろう」
祝辞を言うつもりだったのに、ついつい普段の調子でこのようなことを言ってしまう。
いつもなら、ここでカイトは『別に、おめーに来てくれなんて頼んでねーだろ!』などと怒鳴るのだが―― 今日に限って言えば、無言のまま視線を横に向けてしまうだけだった。
ほぉ。
少しは、辛抱強くなったようだな。
遅い進歩ではあるが、確かに進歩には違いない。
それには、わずかではあるが、アオイは感心した。
これなら、祝辞の一つでも聞く耳を持っているかもしれない。
「夫婦と言うものは……ワインのようなものだ」
もしもスピーチを頼まれたのならば、アオイはこう言おうと思っていた。
とっておきの比喩である。
カイトが横を向いていても、この距離だ。
聞いているのは明白で。
「時間がたてばたつほど、発酵して味わい深い素晴らしいワインになる」
チラリ。
カイトを見ると、相変わらず横を向いてはいるものの、その顔はピクリとも動かなかった。
目は違うものを見ているようだが、特定のものを追っている様子はない。