冬うらら2

 ああ。

 確かに、彼の優しさというものは、表面上からは見えにくいのだ。

 氷山のようなものである。

 水面から見えているのは、ほんの少し。

 しかし、水面下には溢れんほどの優しさが、大きく広がっているのだ。

 その氷山にぶつかり、沈没させられてしまったタイタニック・メイ号でなければ、分かりにくい話に違いなかった。

「ホントなのよ…誤解されやすい人だけど……すごく優しいの」

 すごく愛してくれるの。

 それは、口には出さなかった。

 心の中をよぎった瞬間に、同時に恥ずかしさも彼女の中を駆け抜けたからである。

 言葉で、たくさんのものをくれる人ではない。

 しかし、だからこそ、時々口にされる気持ちが、重く彼女の心の中に沈むのだ。

 名前を呼ばれるのも、好きだと言われるのも―― その度にメイを、目をくらませるような気持ちにさせる。

 他の人では、きっとこんな風に、心を奪われたりしないだろう。

 そして。

 身体で、その気持ちをぶつけてくる人でもあった。

 彼に抱かれている間ほど、カイトがどんなに自分のことを思ってくれているかを、肌で感じることはないのだ。

 こらえられないような吐息で、懸命に彼女を抱いてくれる。

 性的欲求だけとは違う、思いがぎゅうっと詰まった抱擁を、メイは忘れたりしなかった。

「そう…よかったわね」

 みんな、安心したように笑った。

 彼女らにとっては、メイの夫というのは、未知の男なのだ。

 職業や年齢を聞くだけでは埋められない、これから彼女を幸せにも不幸せにもすることの出来る男なのである。

 だから、やっぱり心配してくれているようだ。

 あの結婚式を見てしまったせいもあるだろう。
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