冬うらら2

 彼にしてみれば、KO-NANの『BADIA』は、バイブルなのだ。

 「愛・勇気・希望・夢・力」―― コンセプトだけを見れば、どこのRPGも似たようなものなのに、泣いたのは、それが初めてだった。

 その気持ちは、母親にはどうにも理解してもらえない。

 体育会系の母親にしてみれば、すべて『テレビゲーム』という名前でくくられて、どれも同じようなものらしいのだ。

 しかし、ユウの中ではちゃんとランクづけがあった。

 悪い。やや悪い。ふつう。やや良い。良い。

 そして、スーパースペシャルデラックスに良い。

『BADIA』は、その一番最後の、SSDXに良いゲームだった。

 そんなものに出会うのは、ユウの人生の中でも、多分初めてのことだったのだ。

 キラキラの目をいっぱいに見開いて、開発の人だと目星をつけたオジサンたちに話しかける。

「お…おじさん?」

 しかし、その人たちは全員傷ついたような顔をした。

「確かに、この子から見たらそう見えるんだろうけど…ううむ」

「そうだよな…オレたちも、もうそんな年なんだよな」

 どよん。

 ユウの投げた石が、違う方面に作用してしまったらしく、彼らの様子は変なローテンションになってしまった。

「ねーねー、『BADIA』作ったんでしょ?」

 でも、もうユウは怯まなかった。

 生まれついてのパワー+子供パワーで、甲高い声をキンキン言わせながら、そのテンションの中を切り込んで行った。

「ユウね、あの『BADIA』で、マリアのイベントの時、竜を倒すヤツがあるでしょー! あれでね、42秒で竜を倒したんだよー! すごいでしょー!!!」

 42秒だよ、42秒!

 これは、ユウにとっては最高の自慢だった。

 友達は誰も1分を切っていないのだ。
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