冬うらら2

 むっすー。

 メイが、隣の席からいなくなった途端、明らかにカイトは自分の気持ちが歪んだのが分かった。

 どんな祝辞の言葉もお酌も、どれも対応がおざなりになってしまう。

 大体。

 今日、カイトが我慢している理由は、すべて彼女のためなのである。

 その最大の柱が、なくなってしまったのだ。

 ただでさえ、倒壊しやすい建物のカイトである。

 彼女が見えなくなって1秒で、すでにグラングランと揺れていた。

「んー? どうしたー?」

 ワインボトルを片手に、ソウマが近づいてくる。

 含みのある声で、顔を覗き込んでくる―― カイトは、ふるっと指先を震わせた。

 今日のこの男は、嫌いだった。

 何を着てもどこにいてもサマになる男、というのを見せつけられたし、メイの笑顔も泥棒した男だ。

 その気持ちを込めて、フンとシカトする。

 まともな反応を返すと、絶対にからかってくるに違いないのだ。

「おーお、ご機嫌ナナメか…そんなに彼女と離れたくなかったのかな? ん?」

 グラスも持たないカイトの態度に、しかし、更にソウマは踏み込んできた。

 勝手にワインを注ぎながらも、その口が閉ざされることはない。

「何や? コーナンのシャチョーさんは、そない奥さんにベタ惚れなんか?」

 ひょっこり。

 ソウマ一人でも、厄介なのに。

 聞き覚えのある声に、カイトの中の溶岩の温度が、また上がった。

 見るまでもない。

 こんな、お軽い西部ナマリのある男の知り合いは、一人だけなのだ。

 ワンコの社長、タロウ・タナカ。

 きっと、シュウが招待したのだろう。
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