冬うらら2

 お色直しと告げられて、ソウマはふっと視線を高砂の方に向けた。

 ちょうど、鋼南電気の第一チーフに酌をしながら、カイト社長の会社での態度などを、聞き出している時のことである。

 チーフが言うには、やはりカイトの態度は、はっきりと変化しているという。

 いままでだったら、泊まりになるような仕事であっても、必ず家に帰るようになったし、指輪のエピソードも聞いた。

 やっぱりなぁ。

 カイトが、自分で思いついて指輪を買いに行く男とは思えなかった―― その予想は的中だったのだ。

 チーフが指輪の話をして数日後から、カイトの薬指にリングがキラン☆、だったらしい。

 それを聞いた瞬間と、その後のカイトの行動が、見たくてしょうがなかった。

 きっと、大慌てで宝石店に駆け込んだに違いない。

 指輪なんて、自分から望んではめなさそうなヤツが、今では、もう二度と外したくなさそうな態度ばかりとって、ソウマを喜ばせてくれる。

 チーフと名刺の交換をした。

 こうしておけば、何かあった時に話を聞くことが出来るかもしれない、と下心アリの行動だった。

 しかし、これがヤブヘビとなる。

 向こうは、名刺を見ると、「あぁ」という顔をしたのだ。

 仕事柄、鋼南電気の会社に出入りすることの多いソウマだったので、顔を見られたことや、名前くらい知られていたのだろう。

 そうであっても、不思議ではなかった。

 しかし、チーフが口にしたのは、経営コンサルタントとしての彼ではなかった。

「あなたが、あの有名な……」

 含み笑いつきで、そんなことを言われたのだ。

 一体、自分があの会社で何をしたのかと、一瞬考え込んだソウマだったが―― 思い出してしまった。

 そうなのだ。

 彼は、たった一度だけ、あの会社でポカをやらかしているのである。
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