冬うらら2
☆
「あの、秘書誘拐事件は…いまだ、うちの会社の語りぐさですよ」
やっぱり。
付け足された言葉に、ソウマは苦笑するしかなかった。
カイトのことは、笑えないな。
過去の自分を、思い出す。
あの時は、彼なりに必死だったのだ。
まさか、ハルコとの間に危機感を覚える日が、来るなんて思ってもみなかった。
このまま2人、結婚して、ずっと一生暮らしていくのだと、彼は信じて疑っていなかったのだ。
だから、焦った。
いま行動を起こさなければ、一生彼女を失ってしまうかと思ったのだ。
チーフの前に立っているのが、居心地悪くなったソウマは、曖昧な笑顔でその場を離れると、今やまさに新婦をお色直しに奪われたばかりの新郎の前へと行ったのだった。
ここでなら、彼は大変居心地のいい思いが出来るのである。
「んー? どうしたー?」
言葉を投げかけると、それはもうイライラした目が―― しかし、そらされた。
睨み付けるかと思っていたソウマは、少々肩すかしを食らってしまった。
しかし、いまその辺りに触れられたくないのは事実だろう。
さてさて。
「おーお、ご機嫌ナナメか…そんなに彼女と離れたくなかったのかな? ん?」
そして、勝手にグラスにワインを注いでやる。
今のうちに、酔っておけ。
そんな気持ちによるところだった。
彼女不在の気持ちを、ソウマなりに紛らわせてやろうと思っていたのだ。
こうやってしゃべっていれば、ただ待つよりも、あっという間に時間が過ぎて、すぐにお迎えが来るだろうと考えたからである。
彼なりの、親切心だった。
「あの、秘書誘拐事件は…いまだ、うちの会社の語りぐさですよ」
やっぱり。
付け足された言葉に、ソウマは苦笑するしかなかった。
カイトのことは、笑えないな。
過去の自分を、思い出す。
あの時は、彼なりに必死だったのだ。
まさか、ハルコとの間に危機感を覚える日が、来るなんて思ってもみなかった。
このまま2人、結婚して、ずっと一生暮らしていくのだと、彼は信じて疑っていなかったのだ。
だから、焦った。
いま行動を起こさなければ、一生彼女を失ってしまうかと思ったのだ。
チーフの前に立っているのが、居心地悪くなったソウマは、曖昧な笑顔でその場を離れると、今やまさに新婦をお色直しに奪われたばかりの新郎の前へと行ったのだった。
ここでなら、彼は大変居心地のいい思いが出来るのである。
「んー? どうしたー?」
言葉を投げかけると、それはもうイライラした目が―― しかし、そらされた。
睨み付けるかと思っていたソウマは、少々肩すかしを食らってしまった。
しかし、いまその辺りに触れられたくないのは事実だろう。
さてさて。
「おーお、ご機嫌ナナメか…そんなに彼女と離れたくなかったのかな? ん?」
そして、勝手にグラスにワインを注いでやる。
今のうちに、酔っておけ。
そんな気持ちによるところだった。
彼女不在の気持ちを、ソウマなりに紛らわせてやろうと思っていたのだ。
こうやってしゃべっていれば、ただ待つよりも、あっという間に時間が過ぎて、すぐにお迎えが来るだろうと考えたからである。
彼なりの、親切心だった。