冬うらら2

 おお、ええなー! ええなー!!

 花を飛び回るミツバチのように、タロウは女性の席を狙ったようにお酌をして回った。

 得意のユニークな語りと、特有の人なつっこい笑顔で―― 女心はバッチリ掴んだに違いあらへん、と信じて疑っていない彼だった。

 この場、楽しめればそれでいいのである。

 まあ、確かに運命の女に出会うのも、悪くはない環境だ。

 こんなに、いろんな種類の女が一同に集まる機会は、なかなかないのだから。

 新婦の友人や、会社の秘書たちなど。

 やはり高嶺の花は、タロウが会社関係だということにすぐ気づいて、事務的な態度を崩そうとはしなかったが。

 ううむ。

 あんな、ガケの途中に咲いてる百合のような花を、摘みに行く男はおるんかいな。

 それは、あの秘書が魅力的ではないということでじゃない。

 大変魅力的なのだが、取りに行くにはかなり苦労するので、生半可な男だと、すぐに挫折してしまいそうに思えるのだ。

 ガケから、転がり落ちんとええなぁ~。

 根性のある男が、この世にいることを勝手に願いながら、タロウは、そこでようやく主役にお酌をしに行ってないことを思い出したのだった。

 あかん、仕事しとかな。

 いつも偉いお世話になってます~。

 そういう言葉を挨拶にしようと、彼は真ん前の席に向かったのだった。

 しかし。

 挨拶の言葉をかけるよりも、鋼南社長と先客の話が耳に入ってくる。

 何でも、社長が彼女にめっちゃラブラブ、というような内容だった。

 おお!

 彼の知る鋼南社長からすると、信じられないような話だった。

 いつもは、そんなチャラチャラした無駄話をすると、ギロリと睨みそうな男だったし、実際しゃべりが過ぎて睨まれたこともある。

 そんな社長が、ついに女に目覚めたらしいのだ。

 これは、浮ついた話が大好きなタロウには、こたえられない事実だった。
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