冬うらら2

「こんなことは、前代未聞ですよ…」

 会場を出ると、端の方で。

「どうしましょうか…キャンドルサービス」

「どうしようもこうしようも……」

 これだけの会話で、既にソウマは分かってしまった。

 はぁと、天井を仰ぐ。

 あの男は―― 逃げちらかしたのだ。

 しかも。

 間違いなく、新婦も連れ去ったのである。

 あの男が、一人で逃げることなど絶対にないのだから。

 やられた。

 すごい形相で睨んで出ていった時に、監視をつけておくべきだったと、ソウマは激しく後悔した。

 そう言えば、ただならぬオーラをまき散らしていたし。

 まったく。

 ソウマは、眉間に一本シワを寄せたまま、席に戻ってきた。

 ハルコは、ちょうどナプキンで口元を軽く押さえているところで。

 その白い布をあてたまま、視線だけで彼を追いかける。

 いつもなら、見つめられるのはとても嬉しいことなのだが。

「顔に書いてあるわ」

 何も聞かずに、ハルコは一言だけそう言った。


 察しの良さは、世界一の妻だった。
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