冬うらら2

 困ったわねぇ。

 ハルコは、目を細めた。

 カイトが一人になった時に、からかうのがいけないのだ。

 ただでさえ、この環境のせいで手負いの獣になっている彼に、夫が突っかかったのだ。

 巣に愛すべき伴侶がいれば、どんなに自分が傷だらけになっても離れようとしない動物でも、自分一人なら、そこを守る必要などないのである。

 噛みつかれなければいいけど―― そう心配していたのだが、別の結果になってしまったようだ。

 しかし、まだそのアクシデントは、進行の耳にまでは届いていないらしく、いろんな余興が続く。

 そして。

「それではここで、新郎のご友人でいらっしゃいます、ソウマ・イチハラ様から……」

 友人代表に、マイクが回ってきたのだ。

 ちらりと隣を見ると、ソウマは一つ笑って席を立ち上がる。

 あら。

 こんな時だと言うのに、その横顔にちょっぴり惚れ直してしまうハルコだった。

 覚悟を決めた瞬間の、表情であることに気づいたのだ。

 前にも二度ほど、その笑顔を見たことがあった。

 カツカツと、迷いのない足取りで前の方に進み出ると、マイクの前に立った。

 そして、彼はスペシャルな笑顔を浮かべたのである。

 まあ。

 これは、ちょっとマイナスポイントだった。

 他の女性客が、見惚れたに違いないだろうから。

「えー…新郎新婦におめでとうの前に……一つ、みなさんに報告があります」

 コホン、とわざとらしい咳払い。

「ただいま…新郎が新婦を誘拐して、逃亡しました」

 あらあら。

 周囲が、いきなり騒然となった中―― 一瞬、彼ら夫婦だけが笑顔を浮かべていたのだった。

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