冬うらら2
◎
困ったわねぇ。
ハルコは、目を細めた。
カイトが一人になった時に、からかうのがいけないのだ。
ただでさえ、この環境のせいで手負いの獣になっている彼に、夫が突っかかったのだ。
巣に愛すべき伴侶がいれば、どんなに自分が傷だらけになっても離れようとしない動物でも、自分一人なら、そこを守る必要などないのである。
噛みつかれなければいいけど―― そう心配していたのだが、別の結果になってしまったようだ。
しかし、まだそのアクシデントは、進行の耳にまでは届いていないらしく、いろんな余興が続く。
そして。
「それではここで、新郎のご友人でいらっしゃいます、ソウマ・イチハラ様から……」
友人代表に、マイクが回ってきたのだ。
ちらりと隣を見ると、ソウマは一つ笑って席を立ち上がる。
あら。
こんな時だと言うのに、その横顔にちょっぴり惚れ直してしまうハルコだった。
覚悟を決めた瞬間の、表情であることに気づいたのだ。
前にも二度ほど、その笑顔を見たことがあった。
カツカツと、迷いのない足取りで前の方に進み出ると、マイクの前に立った。
そして、彼はスペシャルな笑顔を浮かべたのである。
まあ。
これは、ちょっとマイナスポイントだった。
他の女性客が、見惚れたに違いないだろうから。
「えー…新郎新婦におめでとうの前に……一つ、みなさんに報告があります」
コホン、とわざとらしい咳払い。
「ただいま…新郎が新婦を誘拐して、逃亡しました」
あらあら。
周囲が、いきなり騒然となった中―― 一瞬、彼ら夫婦だけが笑顔を浮かべていたのだった。
困ったわねぇ。
ハルコは、目を細めた。
カイトが一人になった時に、からかうのがいけないのだ。
ただでさえ、この環境のせいで手負いの獣になっている彼に、夫が突っかかったのだ。
巣に愛すべき伴侶がいれば、どんなに自分が傷だらけになっても離れようとしない動物でも、自分一人なら、そこを守る必要などないのである。
噛みつかれなければいいけど―― そう心配していたのだが、別の結果になってしまったようだ。
しかし、まだそのアクシデントは、進行の耳にまでは届いていないらしく、いろんな余興が続く。
そして。
「それではここで、新郎のご友人でいらっしゃいます、ソウマ・イチハラ様から……」
友人代表に、マイクが回ってきたのだ。
ちらりと隣を見ると、ソウマは一つ笑って席を立ち上がる。
あら。
こんな時だと言うのに、その横顔にちょっぴり惚れ直してしまうハルコだった。
覚悟を決めた瞬間の、表情であることに気づいたのだ。
前にも二度ほど、その笑顔を見たことがあった。
カツカツと、迷いのない足取りで前の方に進み出ると、マイクの前に立った。
そして、彼はスペシャルな笑顔を浮かべたのである。
まあ。
これは、ちょっとマイナスポイントだった。
他の女性客が、見惚れたに違いないだろうから。
「えー…新郎新婦におめでとうの前に……一つ、みなさんに報告があります」
コホン、とわざとらしい咳払い。
「ただいま…新郎が新婦を誘拐して、逃亡しました」
あらあら。
周囲が、いきなり騒然となった中―― 一瞬、彼ら夫婦だけが笑顔を浮かべていたのだった。