冬うらら2

 ああ。

 リエは、頭を抱えた。

 ついに、彼のボスはやってしまったのだ。

 こんなに、会社関係の人がいる中。

 いや、会社関係以外であっても、本日の新郎が『鋼南電気株式会社、代表取締役社長』であることを知っている環境の中で、やらかしてしまったのである。

 彼女の胃は、キリキリと痛んだ。

 付き合いで少々飲んだお酒のせいでも、この披露宴会席に繊細な胃がやられたのでもない。

 あの社長の、理解不能な行動のせいだった。

 どうしてこう…男は。

 まったくリエの思い通りにならない毎日が、襲いかかってくる。

 会社では、社長が理解不能で。

 プライベートでは、付き合っている男が理解不能で。

 いや、付き合っている男の方は、理解出来るのだ。

 というか、何もかも考えていることが手に取るように分かる―― どうして、そこまで単純な思考が出来るのだろうかと、それが理解出来ないのだ。

 もうちょっと、落ち着いて大人な考え方をして欲しいわ。

 付き合っていなかった頃の方が、よっぽどいい男に見えた。

 頼りがいがあって、分かりやすい言葉と態度の人だったので、それがいいと思っていたのだ。

 特に、会社ではあの理解不能のボスに苦しめられていた彼女としては、その分かりやすさというのが、魅力的に思えていた。

 しかし、それが毎日の主食のようなものになると、やっぱり話は違ったのだ。

 社長のような激辛食品にも問題があるなら、あの男のような激甘食品も、やっぱり問題があったのである。

 あぁ。

 男難の相というものがあるのなら、まさしく自分こそがそうではないのだろうか、と彼女は、少し心弱くなった。
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