冬うらら2

 けしからん!!!!

 アオイの、こめかみの血管は切れそうだった。

 彼の教え子であるソウマが、さも楽しい話のようにマイクの前で語っている言葉は、次々とアオイの怒りを沸き立たせていたのだ。

 披露宴を放り出して逃げるなどとは、言語道断―― というところだった。

 さっき、わざわざ彼が祝辞を述べに行ってやった言葉を、もう忘れたのか。

 温度管理が大事だと比喩したが、それは周囲の評判なども含まれるものではないのか。

 こんなことをしても、2人の評判が落ちたり、悪い噂の元となるだけだ。

 アオイはそう信じて疑っていなかったが、次第に会場はどっとわき、みな口々にくだらない噂や想像話に花を咲かせ始めてしまった。

 隣席の男など、ふっと口元に笑みをたたえたままだ。

 皆、何を考えておるのだ!!!

 教授にとっては、余りに不満の多い反応であった。

 しかし、彼の考えている世間というのは、大学の他の教授たちとの駆け引きや、学会や研究団体や―― そういうものばかりだった。

 なので、常識はずれなことをしても、温かい目で見られるという環境があるということを、よく知らないのだ。

 ソウマの、話術によるフォローのおかげが大きかったのだが。


 納得できん!


 アオイの、こめかみに浮かんだ交差点は、帰るまで消えることはなかった。
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