冬うらら2

 な…何が、どうしたの??

 メイはと言えば、1人階段の前で立ちつくしていた。

 どこの階段かなんて、言うまでもない―― 自宅の階段の前だ。

 彼らは、帰ってきてしまったのである。

 しかも、披露宴の途中で抜け出して。

 ウェディングドレスのまま。

 カイトは、庭に待たせているタクシーに、金を払いに行ってしまった。

 本当に、着の身着のままで帰ってきてしまったので、サイフ一つ持っていなかったのだ。

 ぼーぜん。

 うまく頭が働かないまま、メイは少し髪の乱れたウェディングドレス姿で、そこに立っていることしか出来ない。

 これから、何をするかとか、どうしたらいいかとか、全然思い浮かばないのだ。

 それどころか、すっぽかして来た披露宴が、今一体どうなっているかなんて、怖すぎて考えることも出来なかった。

 ただ、自分たちがとんでもないことをしてきたのだけは、はっきりと分かっていた。

 ガチャッ。

 短気な玄関のドアを開ける音と同時に、タクシーが走り去っていく。

 あ。

 メイは、彼を見た。

 顔を顰め、タキシードの襟元を力任せに緩めた姿で、カイトが彼女の目の前まで戻ってくるのだ。

 その荒っぽい様子に、胸がドキッとした。

 エレベーターで感じた時のような、あの気配が、彼の中からたくさんあふれ出していて。

 それが、まっすぐに彼女に向かってくるのだ。

 まったく、よそ見もせずに。

 どうして?

 今度こそ聞こうと思って喉まで出かかった言葉が、またも呼吸と共に一瞬止まる。


 抱きしめられる!


 それが、はっきりと、分かった。

 瞬間的に身体が緊張して、その衝撃に耐えようとした。


 けれど。


 あんなに激しく抱きしめられることまでは―― 予測できなかった。
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