冬うらら2

「タロウ社長、よかったら、二次会に一緒にいらっしゃいません?」

 天下の鋼南第一チーフ自ら、二次会に誘ってくれる。

 これには、タロウはちょっと悩んだ。

 途中で新郎新婦脱走という、めちゃめちゃ面白い披露宴を見せてもらって、彼は一人でテーブルに突っ伏して笑い続けたのだ。

 そのテーブルを、バンバン叩かなかっただけ、彼は社会人としての理性を守って見せたのである。

 そんな愉快な披露宴の後、一人でぽつんと新幹線に乗って帰るのもつまらんなぁ、と正直思っていたのだ。

 しかし、誘った相手が男なのである。

 それで、タロウは悩んでしまったのだ。

 これが、もうちょっとキツ目の可愛い子ちゃんのお誘いやったら、ばびゅーんて飛んで行くんやけどなぁ。

 見れば、開発の男たちばかりが、集団で固まっている。

 下手すれば、野郎比率の高い二次会になってしまう可能性があった。

 そんなムサ苦しいところで酒を飲むのもな―― 彼の心は、かなり断る方に揺らいでいた。

「おい! 秘書課も来るってよ!」

 一人の男が、輪の中に戻りながら、楽しげにそう告げた。

 ピクリ。

 タロウの耳が、動いた。

 しかし、まだあと一歩が踏み出せない。

 既に、この会場であらかたの女性社員には、コナをかけてみたのだ。

 皆、美人ではあったが、90点から95点の中で推移していた。

 ううむ。

 高嶺の花でも、愛でに行くかいな。

 まだ迷いながら、タロウがキョロキョロすると、あの社長秘書の姿が目に入った。

 本日の最高点だ。

 もう一人のべっぴんさんと話をしているが、薬指のリングと妊婦であることはチェック済みだったので、またも「惜しい!」と指を鳴らしたのだ。

「あ、タロウ社長も来られるんですかぁ?」

 鋼南の女性社員の一人が、嬉しそうにそう声をかけてくる。

 92点の子だ。

「おお、行くで~!!!」

 タロウは、ついそう答えてしまった。

 もう、ほんとうに条件反射以外の何物でもない。

 あかん、行くことになってもうた。

 笑いをこらえている第一チーフを尻目に、タロウは、「ま、ええか…」と、呟いたのだった。
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