冬うらら2

「そんなことより! シャチョーをケイタイで呼び出してください! 今すぐ!」

 ギャンギャン!

 こうやってハナが吠えているというのに、その手にあるグラスには、ビールが注がれてしまう。

 このチーフは、本当に人の話を聞いているのか。

「まあまあ、飲め飲め」

 食えない笑顔に、ハナは顔を顰めた。

 こういう、のらりくらりなタイプは苦手だ。

 孫悟空のように、手のひらの上で踊らされているような気がする。

 そして彼女は、こういうタイプの男が、他のどのタイプの男よりも口が堅いことを、これまでの経験で知っていた。

 くぅ!

 思い通りにならないもどかしさに、苛立ちが最高潮に跳ね上がる。

 そんな時に、手元にあるのがビールのグラスなのだ。

 その苛立ちで勢いをつけて、ハナはぐいっとビールをあおった。

 麦茶ならともかく、麦酒なんて別においしいとも何とも思わない。

 苦いばっかりだ。

 しかし、いまの彼女の苛立ちの舌には、ぴったりの味がした。

 ぷはー。

 ぐいと口元を拭う。

 泡の感触が、微かに手の甲にした。

 ビールはおいしいとも何とも思わないが、別に酒に弱いワケではない。

 姉妹の中では、多分一番強いはずだ。

「チーフ!!!」

 再び、攻撃を開始しようとしたハナに。

「おお、いい飲みっぷりだな…さあさあ、飲んで飲んで」

 やっぱり再び、グラスはビールで満たされてしまったのだ。
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