冬うらら2

17:21~17:40

♪ワイン
「何よ! ワインなんて…きどっちゃってー!!!」

 ビールを5杯。

 ここまでは、ハナは覚えていた。

 しかし、自分が今一体どのくらいのアルコールを摂取したのか、もう覚えていない。

 そんなこと、どうでもいいくらいに、出来上がっていたのだ。

 いま彼女が絡んでいるのは、披露宴の引き出物のワイン。

 どんな奥さんか見られないのを可哀想に思って、披露宴参列者の1人がワインを見せてくれたのだが、それが運の尽きだった―― 途端、ハナの攻撃対象になってしまったのだ。

「何よぉ! イチャイチャしちゃって!」

 ワインラベルの中の2人は、異様にラブラブだった。

 よく見れば、写真ではなくイメージ的なイラストであることは分かるのに、いまの彼女にはその判断力がない。

 本物のコウノとコウノヅマが、ラブラブしているように見えるのだ。

 いままで知っている社長や、自分の中で育ててきたコウノのイメージと余りに食い違う、そのワインラベルの中の光景に、『結局、女の前ではコウノもただの凡人』という言葉が、彼女のシッポを踏みつけているのだ。

 しかも、こんなイラストでは、コウノヅマの顔なんてロクに分かりはしない。

 黒髪であることと、色白であることくらいが確認できる程度だ。

 色なら、私だって白いわよ~~~!!!

 ワケの分からない論理が、頭の中を占拠する。

 披露宴には出席出来ないわ、二次会では出会えないわ。

 挙げ句、こんなワインラベルで、宥めようとするのか。

 そんなに。私は安くないわよ!

 ワインのボトルを握りしめたままのハナは、周囲がハラハラしながら見守っている事実に気づいていなかった。

 酔っぱらいに、割れ物を持たせているのだ。

 暴れた時は、凶器になりかねない。

「ちょっと、ウェイター!!!」

 嫁入り前の娘にしては、かなりガラが悪くなりながら、ハナは通りかかった給仕を呼び止めた。
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