冬うらら2

 あかんなぁ~。

 とりあえず、トイレの中でいろいろ考えはしたものの、タロウの頭の中には、もう帰ることしか浮かばなかった。

 ここを出て、適当に副社長に別れの挨拶をして、とっとと地元に帰るのが、一番に思えたのだ。

 せっかくの楽しかった披露宴が、二次会でブチ壊しになるとは―― おそるべし、鋼南電気の副社長。

 まあ、そんなにスーパースペシャルデラックスで、キュートな子もおらんかったしなぁ。

 自分をそうやって慰めながら、タロウはトイレを出た。

 怯みそうになるが、副社長への挨拶を、はしょるワケにはいかない。

 重たい足取りで、一度元の席に戻ろうとした時。

「ちょっと、ウェイター!!!」

 鋭い声が―― 飛んできた。

 あ?

 一瞬、誰に向かってかけられた声なのか、分からなかった。

 ただ、パワーのある声だったので、ついそっちの方を見てしまった、という方が正しい。

 まっすぐに、タロウを見ている強い瞳が、一番最初に彼の脳髄に焼き付いた。

 黒というより、深い深い青に近い瞳に見えた。

 意思の強さと、攻撃的なマリーンの青。

 海の青というより、海軍の青だ。

 しかも。

 更に、ただのマリーンではなかった。

「ちょっと、このワイン開けてよ! ムカつくから飲んじゃいたいのよ!」

 高い声。

 赤い唇。

 白い肌。

 栗色の髪。

 意思の強い瞳に似合う、意思の強い眉のライン。

「はやく、開けてよ!」

 タロウは、身体の中で。


 チュドーン!!!!


 生まれて初めての大爆発の音を聞いた。
< 536 / 633 >

この作品をシェア

pagetop